ご存じですか?歯周病も生活習慣病のひとつです。
医療法人社団 こころとからだの元氣プラザ
統括所長 中村 哲也 監修
(元氣プラザだより:2025年6月号)
年齢を重ねていくと、高血圧や脂質代謝、糖尿病といった生活習慣病が気になる方が増えてきます。では歯や歯ぐきの健康についてはいかがでしょうか。
実は歯周病も生活習慣病のひとつに数えられ、放っておくと全身の健康にも影響を及ぼす可能性があることが分かっています。本コラムでは、「歯周病」について解説していきます。
歯周病とは
歯の周りには、歯肉(歯ぐき)、セメント質、歯根膜、歯槽骨(歯の周りの骨)といった組織があり、歯が抜け落ちないように支えています。
歯周病は、これらの組織(歯周組織)が細菌の感染により溶けていく(壊されていく)炎症性の病気で、放置すると歯を失う原因になります。2018年の抜歯原因の調査によると、「歯周病」が「う蝕(虫歯)」を上回ることが分かっています。
歯周病の患者数
厚生労働省が実施した「令和5年 患者調査」によると、歯周病(歯肉炎及び歯周疾患)で治療中の患者数は前回調査(令和2年)よりも275万人増え、1,135万4,000人(男性445万4,000人、女性689万9,000人)と推計されています。歯科関連の治療を受けている患者の総数(約1,897万人)のうち、約6割の人が歯周病治療を受けていることが分かりました。
歯周病の治療費も増加傾向にあります。令和4年度では、歯科医療費全体の約7割が「歯周炎等」となっています。
歯周病の原因
歯周病の原因は、「プラーク(歯垢)」と呼ばれるネバネバした細菌のかたまりです。このプラークは食べかすなどをエサにして細菌が増殖したもので、1mgのプラークには10億個の細菌が棲むといわれています。特に歯周病の原因となる歯周病菌が、歯ぐきの腫れ、膿や出血、骨を溶かす原因となる毒素を作り炎症を起こします。
口内には400~700種類の常在細菌が共生していて、口の中が不衛生になると細菌(特に悪玉菌)が増殖します。食後4~8時間ほどでプラークは歯の表面に付着し始め、やがて「バイオフィルム」と呼ばれる強固な膜を形成します。強い粘着性のため、うがいでは落ちません。2日程度からプラークは唾液中のカルシウムによって石灰化が始まり「歯石」に変化していきます。歯石は歯ブラシでも落とすことはできないため、専門的なケアが必要となります。
歯周病になりやすい因子
図に示すように、歯周病になりやすい因子は細菌の因子、環境の因子、体の因子の3つに大きく分けることができます。この中で、下線をつけたものは特に注意が必要です。
歯周病と全身の病気の関係
近年、歯周病とさまざまな全身の病気との関係が分かってきました。慢性的に歯周病にかかっていると、歯周病菌や歯周病菌が産生する毒素、炎症に関わる物質が増えてきます。それらが歯茎の毛細血管から全身に運ばれると、心臓や脳の病気を発症させ、糖尿病の悪化や、低体重児出産のリスクを高めることになります。さらに唾液中の歯周病菌が気道へ入ると、肺炎(誤嚥性)や気管支炎の原因にもなります。
例えば、糖尿病は合併症の多い病気で、歯周病がその1つであることはよく知られています。ところが近年の研究により、その反対、つまり歯周病になると糖尿病が悪化することも明らかになってきました。歯周病菌が死滅した後も残る「内毒素(エンドトキシンともいう)」が血糖値に影響するというのです。歯茎から血管へと侵入した歯周病菌による内毒素は、血流にのって全身を回ります。この内毒素は炎症や免疫に関わるタンパク質(TNF-α)を多く作り出し、血糖値を下げるインスリンの働きを阻害すると考えられています。実際、近年行われた研究では、歯周病治療に有効な抗菌薬を投与した2型糖尿病患者さんの血糖コントロールが改善した、という結果が出ています。
また、最近はアルツハイマー型認知症との関連が指摘されています。
歯周病予防・治療で病気予防
かつて歯周病は治らない病気でしたが、現在では進行を止める治療があり、全身性のさまざまな病気を予防できるのではないかと期待されています。
生活習慣病は互いに影響しあうことが明らかになってきています。健康で安心できる生活を送れるよう、食習慣や運動習慣改善などとともに、歯周病予防・治療を始めてみませんか。
歯周病予防の原点は、歯垢をためない(ふやさない)ことです。もっとも大切なのは、毎日の正しい歯みがきでプラークのない歯を保つこと。歯垢をしっかり落とすために、歯間ブラシやデンタルフロスなどの使用なども効果的です。
また、定期的な歯科検診はもちろん、溜まってしまった歯石の除去や歯根の表面のケア、細菌の除去、専門的なクリーニングなど、歯科医療機関で定期的(約3~6ヶ月ごと)なメンテナンスを受けるようにしましょう。