マダニから身を守りましょう~行楽シーズンへ向けて
医療法人社団 こころとからだの元氣プラザ
内科医 中村 仁美
(元氣プラザだより:2024年5月号)
山でのハイキングやキャンプなど、屋外レジャーを楽しむ季節になりました。最近は人ごみを避けるため、より自然に近い環境に足を踏み入れることをお考えの方も多いと思います。楽しい思い出にするためにも、マダニに刺されないように十分な対策をして出かけましょう。
マダニの生息地域と生活環
マダニは世界中に800種以上が知られ、そのうち日本には47種が生息しています。野ネズミや野ウサギ、シカなどの野生動物を吸血して成長していくため、野生動物のいる山に多く生息していますが、民家の裏庭やあぜ道、畑にも生息しています。このマダニの生息地域に近づいてきた人やイヌ、ネコを吸血します。ハイキングやキャンプだけでなく畑仕事、山菜取り、ペットの散歩などでも吸血されないよう注意が必要です。
特にマダニは春から秋(3月~11月)にかけて活動が活発になり、生涯で少なくとも3回は吸血して、卵から幼ダニ→若ダニ→成ダニへと成長していきます。1回に吸血する期間は数日から長いもので10日間以上にも及びます。種類にもよりますが、吸血前で3~8mm程度の大きさの成ダニが、吸血して満腹になると10~20mmほどに大きくなります。
マダニ媒介感染症
マダニによって媒介される感染症は以下のように世界に数多くありますが、日本では特に、重症熱性血小板減少症候群(SFTS ウイルス性出血熱の一種)に注意が必要です。
<マダニによって媒介される感染症 ( )内は病原体の種類>
日本紅斑熱(リケッチア)
Q熱(リケッチア)
ライム病(スピロヘータ)
ボレリア症(細菌)
野兎病(細菌)
重症熱性血小板減少症候群 SFTS (フレボウイルス)
ダニ媒介性脳炎 (フラビウイルス)
キャサヌル森林病(フラビウイルス)
クリミア・コンゴ出血熱 (ナイロウイルス)など
*国立感染症研究所「マダニ対策、今できること」より
重症熱性血小板減少症候群:SFTS
SFTSは2012年以降、西日本を中心にみられていましたが、最近では愛知、静岡、千葉などでも報告があり東日本に広がっている印象です。毎年40~100例ほど発生し、死亡例の報告も少なくありません。
また感染して弱っていた野良ネコにかまれた女性が、SFTSに感染して亡くなられた事例もあり、マダニに刺されてSFTSを発症したイヌやネコから体液などを介して人(獣医師などを含む)に感染した報告もあります。
SFTSウイルスを保有するマダニの吸血から6日~14日間程度の潜伏期間を経て、発熱、嘔吐や下痢などの消化器症状がみられます。倦怠感、リンパ節腫脹さらに白血球や血小板が減り出血症状へと重症化することもあります。致死率は10~30%と報告されており、SFTSウイルスに有効な薬剤やワクチンはなく、病状に合わせた治療をするしかありません。
日本紅斑熱
太平洋側の温暖な地域で報告されている日本紅斑熱は、マダニに刺されてから2日〜8日で高熱と痒みのない赤い発疹が全身に出現するリケッチア感染症です。抗菌薬にて治療できますが、治療が遅れると重症化することもあるので、体のどこかにあるマダニの刺し口をみつけ早期の診断に結びつけることが重要です。
ライム病
本州中部より北側、特に北海道や長野県ではライム病が報告されています。スピロヘータという細菌感染によるもので、マダニの刺し口の皮膚に特有の大きな赤みが出ることが特徴です。発熱や関節痛をはじめとし全身に広がる多様な症状が長期にみられることもあります。
欧米ではライム病の感染者が数多くみられています。ハリウッド俳優や著名な歌手が闘病を公表するなど欧米では認知されているライム病ですが、日本の野ネズミやマダニの病原体保有率は欧米並みであることから、日本にも潜伏していると考えられます。そのため、しっかりとした知識とマダニ対策が大切です。
もしマダニに刺されたら
マダニは人の皮膚に口器を差し込んで吸血しますが、満腹になるまで離れません。満腹になれば自ら離れますが、それまではなかなか離れず簡単に取れません。無理に引っ張るとマダニの口器部分がちぎれて皮膚の中に残ってしまいます。先細ピンセットでマダニ頭部をつまんでゆっくり回転させてうまく取れる場合や、ペット用マダニ除去器などもありますが、すぐに皮膚科を受診して除去してもらうほうが確実です。
刺されたあとしばらくは体調の変化に気を付けて、もし発熱などがみられたら早めに受診しましょう。
マダニから身を守りましょう
半袖、短パン、サンダルなどは危険です。首、手腕、足など肌の露出を極力おさえましょう。
・首 :タオルやスカーフを巻く、ハイネックを着用する。
・手腕 :長袖シャツの袖口は手袋や軍手の中に入れる。
・からだ:シャツの裾はズボンの中にしっかり入れる。
・足 :ズボンの裾は靴下や長靴の中にしっかり入れる。
帰宅後、マダニを屋内に持ち込まないように
・上着やシャツは屋外で脱いでダニがついていないか確認しましょう。
・もし着衣にダニがついていたら粘着テープ(ガムテープなど)を使って取り除きましょう。
・シャワーや入浴で体にダニがついていないか確認しましょう。
・ペットにもダニがついていないか確認しましょう。
虫よけ剤について
マダニに対する虫よけ剤(忌避剤)は、有効成分がディートとイカリジンの2種類が市販されています。虫よけ剤でマダニが付着する数は減らせますが、完全に付着を防げるわけではないので、虫よけ剤を過信することなく他の対策もしっかり行うことが重要です。
ディートとイカリジンのマダニ虫よけ効果はほぼ同等ですが、ディートは濃度により小児での使用が制限・禁止され、イカリジンには年齢制限がありません。(ただし、イカリジンはノミ、ツツガムシなどに対する虫よけ効果はありません。)
ディートやイカリジンの濃度が高いほど強いわけではなく、効果持続時間が長くなっていきます。
(ディート30%で5~8時間、15%で約5時間、10%で約3時間、5%で約2時間
*国立感染症研究所「マダニ対策、今できること」より)
ディート10%以下の製剤
・6か月未満の乳児には使用できません
・6か月以上2歳未満は、1日1回まで
・2歳以上12歳未満は、1日1~3回まで
ディート30%の製剤
・12歳未満には使用できません
虫よけ剤使用のポイント
・虫よけ剤は肌にムラなく塗りましょう。(スプレータイプは直接噴霧するのではなく、手にとって肌に塗りのばす方が吸入の恐れが少なく安全です。)
・効果持続時間を考えてこまめに塗り直すことが大事です。
・マダニが付着しやすい足もとのズボンの裾や靴下など、衣類の上からスプレータイプの虫よけ剤を噴霧するのも効果的です。
・日焼け止めを使用する場合は、先に日焼け止めをつけてから虫よけ剤をつけましょう。
・虫に刺される心配がなくなったら、すみやかに石鹸などを用いてしっかり洗い流しましょう。
・ペットの犬や猫には、マダニに刺されないようにノミ・ダニ駆虫薬を定期的に投与しましょう。
ご精読ありがとうございました!